しのばずブックストリートの元気なヒトたち
四月三十日土曜日、新企画のスタートだ。言いだしっぺは南陀楼綾繁さん(編集者、西日暮里在住)と内澤旬子さん(イラストルポライター、造本家)。それを実現まで持っていったのは、我が町の三書店、古書ほうろう、往来堂書店(新刊本屋)、オヨヨ書林とその仲間たち。
この日一日(十一時から十八時)、道灌山から根津へかけての十二ヶ所で一箱古本市が開かれた。事前に参加表明した一日古本店主は、ダンボール一箱分の愛する古本をもって、決められた大家の店子となる。参加は七十五箱。つまり七十五の個性的な古本屋がしのばずブックストリートに集結したわけだ。
実行委員に加わった谷根千工房の若手社員サトコは、毎度、夜中までかかる話し合いをものともしない。「谷根千工房後援でヨロシク」と言うので酒代をカンパ。企画の急速に盛り上がりは、はたで見ていても勢いがあって楽しみであった。
この企画に先立ち、谷根千界隈の不忍ブックストリートMAPが出来上がり、シノバズ君という内澤さんの作った半人半魚風キャラクターがデビュー(谷根千界隈そぞろ歩き絵図の売れ行きを脅かした)。
その地図を片手に、当日はスタンプラリーをしながら回った。十二の会場で消しゴム版画のハンコを押してもらい、全部揃うと景品(古い雑誌のコラージュされたマッチだった)がもらえる。
私は谷根千賞を授与する一箱を吟味するため、まず団子坂の洋風雑貨店Rechercheに寄り、その後道灌山下の古書ほうろうから池之端に向かって一筆書きすることに決めた。
Recherche前は四箱。ヤマサキはここの専従(会場専属見張り番)を半日担当している。アフリカ市場タムタムの箱のテーマは当然アフリカ。ジャズ奏者渡辺貞夫の写真集。美本、五百円也。お金は店番(時間交代で財布を預かる一箱店主)へ。
不忍通りで作家の小沢信男さんご夫妻と出会う。小沢さんも店主で、持ち店は乱歩の前。楽しそうにあちこち見て歩いている。
古書ほうろう前は最大の十七箱。谷根千工房も確連房文庫を出店。「谷根千」の特集関連本とその特集号をカップリングし、ビニ本仕立てにしたもの。かなりお得。というか、抱き合わせで谷根千も売ろうというヤマサキの商魂はたくましい。お勧めは蝶が立体的に出てくるしかけ昆虫本(平凡社)と七十九号セット(なのに売れていない)。
古い革のトランクをパカッと開けて本を並べているのは水族館劇場の一箱ならぬ一鞄の書函アクアリウム。刺青の豪華本あり。ほかにも、持ってけ泥棒!だの水牛だの、若き日にいきがって読んでは見たものの、てんで意味不明だった「名著」を出しているいきがりや。子供向け洋書トランジスター・プレスなどなど。人でごった返しているが、大家の古書ほうろう店内はどうかと覗くとこちらも人だかり。相乗効果でよかったね。
その足で通りの向こう、西日暮里駅寄りの花歩は民家を使った喫茶店。その前に二箱。専従はサトコで、陽だまりでニコニコしていた。その隣でドカッと椅子に腰を下ろした店番の道に映った影は、内澤さんが「モクロー通信」に描くイラストそっくり。「もしかしてセドローさん?」「そうです」。早稲田で唯一「谷根千」を販売してくれる古書現世の向井透史さん。せっかく会ったのでセドローお勧めのニャロメのマージャン本を購入。私、何でこんなもの買っているんだろう。花歩でコーヒーを飲んでひと休み。おっとまだまだ先は長いのだぁー。
よみせ通りを行く。散歩人多し。スタンプラリーとおぼしき人は若い人が多い。コーヒーのいい香り、と思ったら麻袋の脇に二箱。やなか珈琲店前はトンブリンと碧鱗堂。「これはアラビア語、これはロシア語、これはペルシャ語」と内澤さんが説明する。ヘナで描く模様の本も面白そうだ。「こんな企画があるの知っていたら僕たちも出せたのになあ」と若い男性の声が聞こえた。
月夜と眼鏡は普通の民家で、路地の奥までずらっと箱が十。こうなると座ったままカニの横ばいをするしかない。座って、見て、立って横にずれて、座ってをしていると、腰が…。普通の女の子の本棚という少し気持の楽になる箱があった。これでいいのだ。いや、掘り出し物を見つけるという欲もある。しかし足腰問題でパンフレットや雑誌のバックナンバーを繰る時間がさけなかった。ここは古書ほうろうの山崎哲氏が専従か。
三崎坂の喫茶乱歩の横丁はいい場所だ。人通りもあり、明るいし、道幅もある。小沢信男さんの足裏堂は早くも残り二冊となっていた。茶色い封筒に文庫本が入っている窓あき文庫。セロファン窓のついている封筒に本が入っていて、四、五行の説明が書いてある。ジャンル別(SF・子供向け・小説)に分けた色シール。ちらっと窓から見える装丁と説明文から自分の欲しいものを見つける。このチラリズムが買う人の好奇心をそそるのか。買ってしまった。後で袋を開けたら、「宿題ひきうけ株式会社」(理論社)が入っていた。買った値段より定価が安い。うっ、食わされたか。と思ったが、絶版文庫だそうだから納得しよう。
うーん、だんだん面白くなってきたぞぉー。
往来堂書店前。新刊書店ながら古本市の要の店だ。笈入建志店長も仲間と古本往ったり来たりを出店。ここにはモリの森のクマ文庫もある。張り切って早起きし、スリップ作りをしていたそうな。
おっ、古本うさぎ書林箱に大正七年度東京朝顔研究会会報がある。掘り出し物だ。頁をめくると朝顔とは思えない改良品種、色つき本だ。本郷区林町誰々、谷中清水町何々と朝顔の研究会会員名簿をパラリと見て欲しくなった。千円也。古書と古本の違いここにありという感じだ。
横丁を曲がってギャラリーKingyoへ。ここは台の上に箱が置いてある。屈まないですむのは楽だな。日陰で涼しいし、奥には喫茶コーナーはあるし、車は来ないし。谷根千電脳助っ人守本善徳氏が専従で椅子に座っている。やけに楽しそうだ。どこかの箱に「谷根千」もあった。ショック。
青空洋品店の美術系の二箱を覗き、カフェNOMADの前の三箱。ブックピックオーケストラは袋に文庫本が入っている。このまま切手を貼って宛名を書いて郵送できるらしい。裏には文章から引用した数行。この文を読んでピンとくるものがあればという。厚さで選ぶ。あとで開けてみると長塚節の「土」だった。
根津交差点でつつじ祭りの人通りと合流。「お茶の飲めるところはありませんか?」と道行く人に聞かれたので、花影抄を教える。今日は古本市も見られるよ。ここだけ二階だ。階段に着物のお姉さんが座っていた。文壇高円寺古書店箱の店主が本を補充中。次号「谷根千」の特集に合わせ、大岡昇平の文庫を買う。
さあ、最後のオヨヨ書林前へ。ああ、もう立っていられない。森茉莉さんをキーワードにした森茉莉かい堂、枝川公一さんのWAVEtheFLAGなどなど。写真展もしているペンギン堂の高野ひろしさんと目が合った。
「いやぁ、スリップに懲りすぎちゃって」という。スリップとは本の値段を書いて一冊ずつにはさんである紙のこと。売れた本の精算をするためにそれぞれの店でスリップを用意。本を買うとこのスリップは抜き取られるので手元には来ないのだが、個性的で素敵なスリップばかりで欲しくなった。ちなみに高野さんのは、ペンギンの形が飛び出すように切抜きになっているが、本から出ていると、ペンギンが潰れたり、破れたりしてしまって失敗したと言う。もし来年もやるのなら、スリップ大賞なんていうのも面白いかも。
とにかくこの古本市は来る人も楽しいけれど、売る人がまず楽しくなくてはいけないのだ。
十八時に一斉に閉店。十九時から古書ほうろうで閉会式のはずが、集計に手間取り遅くなる。日没後は暗くて電卓が機能しない、という想定外の売り場もあったそうな。やっと始まった閉会式で売り上げと各賞が発表された。そして桂牧さんのミニライブ。これもずっと立ったまま。やっぱりみんな若いんだなあ。私はへとへとだよ。O
じゃーん!売上と協賛各賞の発表!
売上金額部門
一位 古書碧鱗堂(やなか珈琲店前に出店)五万九九三〇円
二位 室賀書房(乱歩前に出店)四万七一三〇円
三位 トンブリン(やなか珈琲店前に出店)三万三五一〇円
売上点数部門
一位 トンブリン(やなか珈琲店前に出店)七十四点
二位 文壇高円寺古書店(花影抄前に出店)七十二点
三位 森茉莉かい堂(オヨヨ書林前に出店)六十四点
セドロー賞
森茉莉かい堂
書肆アクセス賞
笹文庫
岡崎武志賞
旅猫書房
内澤旬子賞
オホンゴホン堂
谷根千賞
ふぉっくす舎(ちなみに賞品は谷根千1年分とカフェNOMADのエビスビール一杯)
南陀楼綾繁賞
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